妊娠の成立

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妊娠の成り立ち

妊娠の成立

①十分な数の運動性のある精子の射精

通常、腟内に数千万から1億を超える精子が射精されます。その半数以上が運動しており、おたまじゃくしのような形のいいものが30%以上占めています。腟内のpHは腟内に常在するデーダーライン桿菌によりブドウ糖から乳酸が産生されるため、4.0~5.0と酸性であり、特に排卵期にはpHは3.4くらいにまで低下します。精子は酸性の環境に弱く、腟内では長く生存することはできません。腟内の精子は射精後約30分で急速に運動性が失われ、受精能力がなくなります。

②排卵日直前に増量した頚管粘液への精子の進入

排卵日の3~4日前から子宮の入口の頚管と呼ばれる管に粘り気のある水様透明な液がたまってきます。この粘液の中を泳いで精子は子宮腔の中に進入します。排卵期の頚管粘液のpHは7.0~8.5で精子の最も適した状態になっています。したがって精子は環境のよい頚管内にすみやかに移動します。この頚管粘液は卵巣の卵胞からの卵胞ホルモンの分泌が増えると多くなります。
精子にとって排卵期の頚管粘液はいごこちのいい場所で、このなかでは精子は5~6日ぐらいは生きていることもあります。また頚管粘液の中を精子が遡上していく間に、運動性が活発になり、子宮腔から卵管へと勢いよく進んでいきます。運動性が活発になると同時に精子には卵子と受精する機能が授かります。

③子宮腔から卵管膨大部への精子の遡上

卵管は子宮と卵巣を結ぶ管ですが、細い所は内径1mmほどしかなく、卵管に近づくほど広くなり、末端(卵管采)は扇状に開いた形になっており、ラッパの形に似ているのでラッパ管とも呼ばれています。卵管は感染や内膜症で詰まったり、その周囲が癒着したりして、変形すると卵子を捕らえられず不妊の原因になります。
精子は子宮の入口から卵管膨大部まで17~20cmの距離を早いもので5分ぐらい、15分から遅くとも40分ぐらいで到達します。腟内に射精された精子のうち、受精の行われる卵管膨大部まで到達しうるのはごく僅かであり、機能的にも形態的にも優秀な精子のみが到達できるのです。
奇形精子や動きの悪い精子は卵管膨大部には到達できず、自然淘汰されます。腟内に射精された数千万から1億個の精子のうち卵管膨大部に到達できるのは千個に満たない数と思われます。

④卵胞の発育と排卵

月経の始まる頃には直径5mmほどの卵胞は、脳から分泌される卵胞刺激ホルモンの働きで徐々に大きくなっていきます。卵胞の直径が8mmぐらいになるころからこの卵胞からエストロゲンが分泌され10mmになれば分泌が多くなり、子宮頚管部分の粘液の分泌を促します。
15mmぐらいになれば、さらに多量のホルモンが分泌され、卵胞が成熟してきます。20mm~23mmになると最も成熟してきます。
卵胞が成熟すると脳から排卵を促すホルモン(黄体化ホルモン)が分泌され、卵胞は破裂し、その中にある卵子がお腹の中に放出されます(排卵)。排卵後残った袋の部分が変化し、黄体を形成します。この黄体から黄体ホルモンが分泌され、子宮内膜を刺激して着床しやすいように変化させます。

⑤卵のピックアップ

卵巣から飛び出した卵子は、ラッパのような格好をした卵管采に捕まえられ、卵管内に取り込まれます。そして、卵管膨大部まで運ばれ、精子と出会い、受精します。
卵巣と卵管の間は直接つながってはいません。この卵管采の形が変形していたり、癒着していたりすると卵子を取り込むことはできず、不妊の原因になります。

⑥受精

卵管の腹腔側に近い膨大部で精子と卵子が出会い受精します。
卵子は周りを取り囲むようにゼリーのような卵丘細胞があります。これは卵胞内で卵子を保護しています。多数の精子がこれに接触すると細胞の結合が弱くなり、卵子から離れやすくなります。その中をすりぬけて精子は透明帯という層に到達し、それと結合します。透明帯の表面には精子結合部(レセプター)が存在し、精子はこのレセプターにのみ付着し、他の場所には結合できません。また1個の精子が透明帯に付着すると、卵の細胞から表層顆粒が放出されます。この表層顆粒によって透明帯表面の精子結合部分が不活性化されます。そのため1つの卵には2個以上の精子が侵入することはできません。またこの表層顆粒は卵細胞質が未熟な場合には存在しないため、たとえ未熟卵が排卵しても、精子が2個以上進入し、染色体異常となり、発育できません。

⑦受精卵の分割と子宮内への移送、着床

卵管膨大部において受精した受精卵(胚)は分裂を繰り返しながら、卵管の運動をかりて、子宮腔内に送られます。精子が侵入してから5~6日で子宮内に到達し、7日ぐらいで着床します。このときの子宮内膜は黄体ホルモンの影響で肥厚し、ビロードのような粘膜で覆われており、これに胚が付着し着床します。子宮腔内に異常があれば着床しません。また内膜の形成が悪いと胚の着床に影響がでます。

不妊症の原因

子宮内膜症

子宮内膜はエストロゲンの影響で厚くなり、妊娠が成立しないと子宮から剥がれて月経として排出されますが、月経血は卵管を通じてお腹の中にも貯留します。その中に含まれている子宮内膜組織が何らかの原因で子宮、卵巣の表面あるいは内部に入り込むことがあります。その子宮内膜組織が月経時に出血を繰り返し、その結果骨盤内に癒着を起こす病気が子宮内膜症です。
子宮内膜症が卵巣内に発生するとチョコレート嚢腫といわれる嚢胞を作り、子宮筋肉内に発生した場合は子宮全体が膨れ子宮腺筋症と呼ばれる病気となります。
子宮内膜症が不妊を起こす機序として

  1. 子宮内膜症による炎症のために生ずる腹水が免疫異常を起こし受精や着床を阻害すること
  2. 子宮内膜症の炎症の結果、癒着や卵管閉塞、卵管の運動障害を引き起こし、卵のピックアップ機能を障害すること
  3. 卵巣チョコレート嚢腫による卵胞発育の障害
  4. 子宮腺筋症では着床障害が考えられ、とくに 1. による不妊は内膜症による進行度、重症度に関わりなく起こります。つまり子宮内膜症は進行が軽度であっても不妊の原因になることがあるのです。子宮内膜症の症状は月経痛や腹痛、腰痛、セックスの時の痛みなどで、病気の進行とともに症状は増悪します。

卵管ピックアップ機能

卵管は子宮と卵巣を結ぶ管です。卵管の先端の卵管采、卵管膨大部、卵管峡部といった部分からなり、卵管采は腹腔に扇状に開いた形、イソギンチャクのような形になっています。
排卵した卵子は自分の力では動けず、卵管采の中へ入ってはいきません。排卵しようとする卵胞を卵管采が感知し、卵管采が卵胞を包み込み、排卵した卵子をとらえ卵管膨大部に吸い込みます。これを卵管の卵子のピックアップ機能といいます。その後取り込まれた卵子は卵管膨大部で精子と出会い、卵子と精子がひとつになり受精が起こります。受精卵は卵管内を発育しながら、子宮腔のほうに移動していきます。
精子は自分で運動できますが、受精卵は卵管の内側にある卵管上皮細胞の働きにより子宮内に輸送されます。
卵管のピックアップ機能が損なわれると、たとえ卵管が通っていても、卵子を取り込めず受精が困難になります。卵管采に形態的に異常がある程度あれば腹腔鏡や卵管造影である程度診断できますが、見た目で異常なければ、この障害を診断する方法はありません。実際、原因不明で体外受精適応となり妊娠した例ではこのピックアップ機能障害の可能性が強いと考えられています。
閉鎖や周囲癒着の原因としては子宮内膜症や炎症によるものが多く、また骨盤腔内に手術後に起こることもあります。また炎症の既往がなくても、クラミジアによる無症状感染も考えられます。

クラミジア感染

性行為により感染する病気をSTD:Sexually Transmitted Diseaseと呼びます。
以前は梅毒、淋病などが代表的なSTDでしたが、今ではクラミジア、ヘルペス、トリコモナスなどの病気が増えています。
なかでもクラミジアは不妊や流産の原因になりやすく注意が必要です。この病気はクラミジアトラコマティスという菌によって引き起こされる感染症で男性には尿道の炎症を起こしますが、無症状のことも多く、感染したのが分からない場合も多いです。女性では子宮の出口付近の炎症(頸管炎)を起こし、水っぽいおりものが増えます。さらに症状が進むと卵管や骨盤内に癒着を起こし、不妊の原因になります。軽度の腹痛があり、放っておいたら、いつの間にか治ってしまったとか、何度か原因不明の腹痛があったとかいうときに、クラミジアに感染していることもあります。
治療は抗生剤の服用で治りますが、相手の方も同時に治療しないと、再感染することもあります。

着床障害

受精卵(胚)は分割を繰り返しながら子宮内膜に接着し、子宮内膜内に深く侵入します。この現象を着床と呼びます。
この着床が妨げられる原因として子宮に筋腫、腺筋症やポリープなどができている場合、黄体ホルモンの分泌が不良であったり、子宮内膜が肥厚していないために受精卵子を受け入れられない(黄体機能不全)、受精卵自体が良くないために育たない、あるいは受精卵の透明帯が厚いために卵子が孵化しにくい(内膜に接着できない)、免疫的な異常のために受精卵が子宮内膜内に侵入できない、などの理由が考えられます。

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